2022年12月25日

夢より

エスカレーターで下りながら

「おじさんは今、なにかやりたいこととかなにか夢とかってありますか?」

と聞いた。

私は東京に引っ越してきてから、
会った友だち(なんとなく近しいジャンルの人)に聞きがちだ。

「ちょっと、エスカレーターでは、言えないなあ。」

ほんの少しもじもじしながら夕焼けおじさんは言った。

そうか、たしかに、大切な話だものなあ、
なんとなく申し訳なく思いながら、
それでもおじさんは2階分ほど下ったところで

「ピアノを習って、
 あの、街なかピアノってあるでしょ?
 ピアノ習って、あれ弾いてみたいなあ」

「いいですね!」

またしばらくしてふたり1階に着き、わずかな残り時間、外のベンチで話すことにした。

「実は・・・」

夕焼けおじさんはおもむろに言った。

「ずっと職場で同じだった人を好きになっちゃってさぁ。」

全然驚くことではなかった。彼は私の知ってる20年近く前から常に2〜3人の女の子の存在がなぜかあったし、その「好きになっちゃった」というのは正直屁でもなかった。

しかも今おじさんには奥さんがいる。だから尚更どうでもよい。

「そうなんですね。」

その"屁"感が出ていたのか、

「急に冷たくなったね!」とおじさんは言った。

「アーティストって、恋の曲が多いでしょ! だからきっと相談もお手の物だと思ったのに・・・」

「なんですか、ミュージシャンが恋愛相談受けつけてるわけじゃないですよ。」

ちぇっという顔をしながらそれでもおじさんはその人と働いて何年になるだの、週に2回くらい一緒に帰る、帰るだけ、だの、本当にたまに飲みにいくこともある、だの喋って、都度私の冷たい相づちを受け、しかしなぜか「なんだか、スッキリしたよ!」と爽やか。

「さっきの夢ってピアノのことですか?」

聞くと、 ちがうよ。 おじさんは言った。

「え、じゃあ……」

恋をしてるから夢どころじゃないんだよ!

と言った。

 

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明日、あたらしいYouTubeチャンネルを開く予定です。おたのしみに