2016年10月7日

敦子さんの鳥

敦子さんとは京都で暮らしていたとき、コンテンポラリーダンスのワークショップで出会った。
他の人たちが頭で考えながら踊っているなか、
敦子さんの踊りは何かを手放してるみたいに見えた。
その他、敦子さんについて知っていることといえば、
昔パンクバンドのベースをやっていたことがあること、
京都出身であること、
美術だか芸術だか情報だかに関係する大学に言っていたこと、
結婚して初めて東京に暮らしはじめたこと、
息子さんがいること、
漫画に詳しいこと、など。

土曜日、敦子さんの家に遊びに行った。
遊びに行くのは半年ぶりなのに、当日の誘いにも関わらず、
敦子さんは手ぶらで靴下も履いていない私に羊羹を出してくれた。

羊羹を食べていると
「どう?この皿」と、
まだ真ん中が羊かんで埋まっている皿の感想を求められた。
真ん中の部分が羊羹で埋まっているけれど、そこには大きく鳥(たぶん鶏)が書かれている。
「あっ・・・! いいですね」慌てたために雑な返答になってしまった。
「おとんが作ったん」
そうだ、敦子さん家のお父さんは陶器でアクセサリーらしきものとか色々つくる人だった。
「かわいいですね」あらためて言うと、
「まだあるで」敦子さんは同じサイズの皿を5~6枚かさねて持ってきた。
ふちどりが描かれているものもあればないのもあった。
真ん中に鶏がいるというところは全部一緒だけど、それぞれ大きさも色加減も、鳥の形・表情も絶妙に全部ちがう。
わたしはその中の、ふちどりのない皿の一枚に特に惹かれた。
「売ってんで」と敦子さんは言った。
「もしかして、これも売ってくれるんですか?」気になっていた一枚を指して言うと、
「ええで」

数分で、とても満足できる値段でステキなお皿が手に入ることになった。
俄然うれしく羊羹を食べた。
しばらくして、それぞれの話をして、またお皿の話に戻ったとき、
敦子さんは私の買うことになったお皿を指して言った。

「はまちゃん、わたし、これが一番好き。」


笑った。

一回売ると言ったものを、そう言ってみればこれが一番好きかもしれないと思って、
「わたしはこれが一番好き」とすべてを回収する。

そんな敦子さんと、これからも友だちでいたいと思った。


torizara
(1年越しにようやく購入した皿。
 買うともれなく写真を撮られた(お父さんにどんな人が買ったか送るらしい))