2021年6月10日

じゃがいも

デビューライブのチラシを置かしてもらいに、
高知の某喫茶店にお友達とランチを食べがてら行った。
そこの女店主は一度、去年のクリスマス、飲みの席で一緒になったことがある。
木のドアを開け、アンティーク雑貨なども置かれている店内に入り、
友人とランチのひとつを注文する。
注文したランチが届き、食べる前に思い切って声をかけた。
一度会ったことがあるんですが、ほら、あのとき、
クリスマスの時のことを話すと、女店主はすぐ記憶の中から私を思い出してくれた。
そしてチラシを渡すと、
「まぁ。歌う人だったんですね〜。」
と、外のパッとしない天気を忘れさせるような明るい声で言った。
はい、まぁ。
歌う人という自覚はまだなかったが否定もできずに言うと、
「今までもやってらしたんですか?ライブ。」
と聞かれたので、
いえ、今回が初めてなんです
と言うと、
「まぁ!じゃあドキドキするでしょう。」
と共感してくれた。
はい、もうドキドキソワソワです、
と答えると、
「うわぁ、こっちまで緊張してきちゃう。」
・・・まだ会って3度にも満たないというのに、
まるで自分が舞台に立つように力一杯の共感をしてくれている。
なんと人情味に溢れたお方だろう。
優しさに目を細めていると、

「じゃがいもだなんて、思えませんよねぇ。」

と女店主が言った。
先程まで舞台に立った時の臨場感を互いに感じていたはずなのに、何故じゃがいも。
突然の野菜の登場に、私の思考は停止し、真意を探る為に目が開く。
どうしたものかと目をキョロキョロさせていると、
キョロキョロに気づいたのか否か、より噛み砕いた説明があちらからやってきた。
「緊張した時は人をじゃがいもと思えって言われたけど、
 とてもじゃがいもだなんて思えませんよねぇ。」
とのこと。
なるほど。
緊張した時の対処法なのか。
知らなかった。
そしてこれも女店主の優しさだったのだ。
だから私は努めて穏やかな表情で
「はい。じゃがいもだなんて思えませんよねぇ。」
と臨機応変に答えた。
にしてもじゃがいもはこんな風にも会話に現れるものなのか。
私は目をぱちくりと瞬かせ、
女店主との会話はじゃがいもで幕を降ろし、
ふたたびご飯を食べていた友人の方に向き直った。
ご飯を食べようと口を開くと、友人も口を開き、
「私は、かぼちゃと思いなさいって言われたよ。」
と言った。

喫茶sumicaにて 2011年9月末