2020年6月21日

本を読んだ友だち

5月の日記から抜粋の5月◯日

昨日の夜に思いついて、木曜日しか販売していないロールケーキを買いに行くことにした。マスクをつくってくれた友人に、お礼もかねて「ロールケーキ買っていくよ」と連絡した。店は12時〜、駐車場がないこともあって11時55分を目指してついたら長蛇の列。ロールケーキを求めて、ロールを描きそうな人の列。20分並んだが、7〜8人先の人で売り切れる。「売り切れたわ〜」という誰かの声で気づく(本を読んでいたため)。結果、ただ手ぶらで友人の家に行く。やはり人から淹れてもらったカフェオレは美味しく、おかわりを求めた。

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『本を読んだ友だち』

「ロールケーキ、買えんかった・・・」無念の電話を、ロールケーキ屋の前からかける。「えっ、そうながや、全然いいで!」と友人はへっちゃら。そりゃそうか、私が勝手に思いついて、私が勝手にもちかけた計画だ。「どうしよう、」当初の目的"ロールケーキを買って持って行く"がなくなった今、もう帰ろうかと思う。友人「私はどちらでも!」そりゃそうだ、(以下リピート)。「でも、」と友人は言う。「ちょうど私もひろじに会いたいと思いよったがよね〜。喋りたいことがあって。」

その"喋りたいこと"は何か聞くと、
読み終わったばかりの本の感想なのだった。

西加奈子・著『サラバ!』
2014年11月3日に刊行され、その当時に私も読んだ本を、
今読み終えた友人が感想を話したいと言っている。

手ぶらだがなんとなく行くことにした。電話でもいいような気もするが、友人の声からは直接でないといけないような切迫した空気を感じた。

たどり着いた友人の住むマンションの号数が思い出せず、
私は2つに絞った候補の家の前で匂いを嗅ぎ、
こちらだと思った方のピンポンを押した。
すると部屋着+メガネの、オフスタイルのよっちゃんが扉を開いた。
私が座布団の上に座ると同時にはじまったその感想は、
一言で言うと、熱かった。

「なんか、、なに!?」
「ほんとに、すごいなと思った!」
「なんかね~とにかくね~ひろじに言いたい!」
「途中までは主人公と同じ気持ちよねぇ!」
「あなたの買った家だよ!?」
「なんでそんなに許せるのか、みたいな感じやって。」
「最終まで読んだらこういう背景かとわかったがやけど、」
「なんか、対比!?」
「幸せにならんどこうと思ったこの人が何をやっても幸せやったが!」
「けんど、絶対に幸せになってやるって思ったこの人が幸せになれんかったが!」
「この、対極とか!ねぇ、すごくない!!?」

そしてその興奮を止ませようとすることもなく友人は

「西加奈子さんはいつもこういう話なが!?」

と私に問う。
・・・こういう、、って?

「こう、、割とこう、、
人間描写っていうか、日常っていうか、、!」

私は思う。
小説って大体そうなんじゃ?

「そうなんじゃ?」

あ、ごめんごめん、つい頭の中で書いた文章をそのまま口に出してしまったみたい。

「そうなんじゃ、クエスチョン!」

そうして友人は、ひとつのひらめきにたどり着く。

「私、小説読んだことないかも。」

*小説:作者の奔放な構想力によって、登場する人物の言動や彼等を取り巻く環境・風土の描写を通じ、非日常的な世界に読者を誘い込むことを目的とする散文学。(新明解国語辞典第5版より抜粋)

いや、まったく読んでいないと言ったらウソになる。
だけど思えば中高時代、よっちゃんが前のめりに読んでいたのはハリーポッターだった。
(それはよっちゃんだけじゃなかったけど。)
彼女がそれ以外の本を読んでいるのを教科書以外では見たことがない。

「私、本読んでこんかったきこんな語彙力がないがや!」
「もっと昔から本読んじょったらなんか、私、違う人生になっちょったかもしれん!!」

よっちゃんは今、小説を読み始めた。
ファンタジーより現実味を帯びた「本」に面白さを感じ始めているそうだ。
私はむしろ逆で、今こそファンタジーを求めてる。私はつづけて言った。

「学生時代、ハリーポッターも読もうと思ったけど、
途中でやめてしもうた。なんか、追えんかったがよね。」

と言うと

「ハリーを?」

とよっちゃんは言った。
私が言ったのは文章の意だったが、
友人の瞳の中にはまだ学生時代に培った魔法の火が根強く灯っているのだった。