2020年5月17日

フルーツパーラー修行

友人・プリンケツ久松と行ってみたかったフルーツパーラーに行く。

その日私は高知から東京についたばかりで、
飛行場からそのまま美容院に直行、
そのあと久松とフルーツパーラーに行く予定を立てていた。

美容院でのカットが完璧に終わり、移動する前に久松に電話。
すると、
「これから行くフルーツパーラーについてネットで調べたら、
子ども連れでもOKだけど、
口コミによると、子どもに厳しいらしい」
という情報を仕入れていた。
母親ともなると用意に抜かりがない。

私は私でスーツケースやらの荷物を久松の家に預けたい願望もあったので、
子供が寝たら現地集合、子供が寝ていなかったから久松家集合にする。
(久松の家はそのフルーツパーラーから徒歩圏内)

「今寝たき、現地集合で!」

とラインがきて、飛行場についたそのままの状態でフルーツパーラーに向かう。
建物前には、がっつり寝た子どもを連れた久松、用意は万端。
いざ!
と入ろうとすると入り口に「大きなお荷物の持ち込みは厳禁」と書かれていた。
私はスーツケースと、フォークギターと、なんならイケアの青い袋を肩からかけている。
子供は寝ているし荷物も静かだが、大きさだけはごまかせない。
二人+赤子で立ち尽くす。

眠る子供を連れ、私たちはしぶしぶ久松の家に戻る。
フルーツパーラーでだけは怒られたくない。
荷物を置いて再び出陣。
子供が起きる。

改めてたどり着いたフルーツパーラーの建物。
店のある階へと登っていくと、
入り口の前には「携帯電話の使用は厳禁」「禁煙です」
「店内で待ち合わせはできません」「店内での通話はご遠慮ください」
「香りの強い香料を御使用のお客様の入店をお断りする場合があります」
などなどなど、主に赤青黒の3色で手書きされた
大量の張り紙が貼られているのだった。若干重複するものもふくめて。

家からここまでくる道中で、久松が教えてくれた。
「子供スナックの持ち込みもダメらしくって、
子供用には、すぐ出てくる、100円のバナナがあるんだって」

人類の起源はサルだと信じて疑わない店主なのだろうか。

そして店内で、ぐずり始めた子供の様子を見て、瞬時に「バナナをください」と注文した友人の適応能力に私は感動すら覚える。

私たち人間は苺パフェとアボカドトーストを注文した。
デザートも主食も食べたい年ごろなのだ。
パフェは分けられたらと思っていて、
「スプーン、ふたついただいてもいいですか?」
と聞くと、若い女性店員から
「あまりシェアをすすめていないので、
スプーンはひとつしかおつけできません」
と言われそもそも硬くしていた背中に緊張が走る。

イメージしてみる。

ひとつのスプーンでひとつのパフェを食べる。

距離が、近すぎる行為ではないか。

いくら中高同じ学校で過ごしたからといって、
それから10年以上の時が経っている。気にかかることも増えた。

「私、平気で」
という久松に、私は大人になってから新たな「好き」を加える。

しかしそこにやってきた子ども用のバナナにフォークがついてきていて、
「フォークだ!!!」
と私たちは歓喜する。
「私、これでパフェ食べるよ!」
と友人はフルーツパーラーで叫ぶ。

(叫ぶのは厳禁、という張り紙はなかった。)

数十分後、一足先にアボカドトーストがやってきて、
パンの上に乗せられているだけの柔らかいアボカドがパンの上を滑り、
ぽろぽろと堕ちる。「フォークがあれば」と思うけれども
さきほどの厳粛な態度を思えば「フォークをください」と聞く事ができない。
子供が泣いたらバナナを強いる、
人類の起源は猿だと疑わない店主だ。
つるつる滑るアボカドも「指でつまむことをおすすめしております」と言われかねない。
赤子の使っているフォークはこの先、久松がパフェ用に使うことになっている。
その間にもアボカドはオイルにまみれパンの上を戯れ
私の指はマヨネーズなどで濡れる。
店員の様子を5分ほど伺い、
本日最大の勇気でやはり聞いてみることにする。
「パンの上のアボカドをすくいたいのでフォークをください」と言う。
きちんと理由を言ったところがポイントだ。
するとすんなり、フォークをくれる。

人のこだわりは読めない、と思う。いつだって。

いったんは安心したものの、
今後、まだ何が起こるかわからない。
次、いつ来るか分からないパフェに備えて、
私はトーストで使ったフォークを机の下で握りしめたまま、
数十分間のおしゃべりにいそしんだ。


(2020年2月)