2012年7月15日

急にミュージックビデオ撮ることになった話

誰だったかに「先生も部室ノート書いて下さいよ〜」と言われて断ったものの、書いてみることにしました。
今日は休みだけど、これを書くためだけに学校に来てみました。小雨だよ。

(中略)

ふと思ったんだけど、
もしかしたらみんなはまだ本当の「楽しい」を知らないのかもしれない。
遠足も楽しい、友達と話すのも楽しい、電話も楽しいし、ムダなことってのも結構楽しい。
こういう「楽しい」も生活の中ではとっても大切なんだけど私の言う楽しいはもうちょっと違うところにある。
本気で向かい合った時に返ってくる楽しさ、喜び。
本当にガムシャラにやって楽しいってのがある。
それは普段の楽しいよりも、深い。

皆はどこかで「楽」をしようとしてるように見える。遠慮してるように見える。
その時流れる時間はまた別のもの。
分からなければ分からないでいい。
悲しかったら大声で泣いてもいい、腹がたったら怒ったらいい。
本気で何かと向き合えば、何かがきっと返ってくる。
それは知らなかった気持ちかもしれないし、友達の本音かもしれないし、
知らない自分かもしれないし、誰かの笑顔かもしれないし、
賞賛かもしれないし、お客さんの感動かもしれない。
そして自分の中に生まれる充実感かもしれない。

(中略)

それでは また明日  浜口寛子

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昔、母校で働き、演劇部の顧問をしていた時、
生徒達にあてたらしきノートの複製が出てきた。
よくもまぁコピーしておいたものだというそれを、ふとしたきっかけで見つけて、
まぁえらそうなこと言ってるわ〜とか思ってから、
私は初めてのCDアルバム引っさげて全国ツアーに出かけた。

京都、
東京。
かつて暮らした街を巡っていたら、
東京で、熱い男に出会ったのだ。

草野翔吾。

彼は学生時代から映画を撮っていた。
私は当時役者をやっていて、出演した芝居を見た彼に
「ファンなんっすよ〜!いつか絶対に撮りたい!」と言われたのを私は
「東京の軽い男」くらいにしか認識せず、もちろん言葉は嬉しかったが、
実際オファーもなかったしで、お互いそのまま大学を卒業し、連絡をとることもなくなったのだった。

しかし、
草野さんは本気だったのだ。

5、6年越しにそれを知ることになったのは、先日、私のライブを見に現れた草野さんが、
ライブ後の会場でどうしても「はまぐちひろこのミュージックビデオ」が撮りたい、
と何を言われても食い下がったからだ。
最終的に、
「もしダメとか言うなら、今日隠し撮りしてたライブ映像、ユーチューブに上げるよ!?」
と彼は言った。

白ワインがぶがぶ飲みながら、タバコすぱすぱ吸いながら、
ポケットに手突っ込んだまま恐ろしく前のめりな発言を連発する男を前に、
私もマネージャーMも、多少の戸惑いを感じながらも、
しかし、言葉にするなら「熱意」以外にないそれを目の当たりに、
使うかどうかは仕上がりを見て判断するという条件の元、その場でOKを出したのだった。

そしてライブの翌日、昼からPV撮影は本当に始まった。
昨日の今日なのに、一体どこにいたんだというスタッフ達を従えて、
重そうな機材をいとも軽そうに背負って草野さんは現れた。

「いやぁ昨日は酔っぱらってたからなぁ、はははは!」

話し合いのため一度入店したファーストフード店で
彼が開いたノートにはアルバム収録曲「OLと鳥」の歌詞が手書きで書かれていた。
そして当初「ドキュメンタリー風に」と言っていた内容にはガッツリ設定が組まれていた。

「朝6時半にひらめいて起きちゃったんすよー!これだー!ガバーっ!って。」

小鳥のさえずりでも目覚ましでもなく、
“ひらめき”で目覚めたと話す彼に若干ひきながらも、
これほど熱い男を見るのはもしかしたら初めてかもしれないと思った。

何もかもが急遽決まったことだったので、撮影はロケハンを兼ねてのものになった。
スタッフと私達を連れて、草野さんはあらゆる場所を歩いた。
草野さんがここでやろうと言えばそこでカメラが回り始めた。
さまざまな場所で、警備員さんに警告を受けながらも撮影は止まらず続いた。
スタッフは地下道を自然にする何かを持ってきてと言われれば、想像を超える早さで段ボールや傘などを見つけてきた。草野さんの発する言葉を漏らさずキャッチし、カメラワークから人通りのチェックまで完璧以上の働きを見せた。そして私はと言えば、「あそこに追いかけてる対象がいると思って」とか「もっと口を使って表現して」とか、挙げ句の果てに横から動くカメラで撮られながら前方遠くにいる何かを追いかけるとか、気づけば何年か前にもやったことのないほど高度な「演技」の必要を迫られ、ただただ呆然としながらも、口を動かし、言われた対象を追いかけていた。

全てがドタバタだったのにも関わらず、
草野さんのイメージに適うものはどこにでも現れた。
人気のない通路、地下街、コインロッカー、新聞紙、鳥、公園、そして屋上。
街が動く。風がふく。
それらを動かしているのは草野翔吾の「熱意」だけだった。
もし違ってもそう見える。
彼の熱量が、風景を定め、私を動かし、スタッフはそれについていった。

2日間、汗もかいたし、ライブ後で寝てないし、
食事は移動しながらのコンビニ食だし、
まさかの芝居みたいなことしたって全然上手くできないし、
体力使うし、反省もするし、ふがいなさも感じるし、満足なんてちっぽけなものだったりもするんだがしかし作業の中で生まれる「面白い」は普段ののんべんだらりとした生活の中で生じる「面白い」とはどこか異をなしている。作業という言葉が別のものである人もいるだろう。

京都、
東京、
そして高知に戻る飛行機の中で、
いつか自分が生徒達に向けて書いた言葉が再び頭に浮かんだ。
—本当に取り組むからこそ面白いってのがある。
ほんとだ。
それをまた、感じることができた。
良い意味で、東京らしさのないツアーだった。

2日目の撮影日、草野さんがスタッフの人に話しているのが聞こえてきた。

「昨日も緊張して眠れなくてさ、寝付けのためにお酒飲むけど効かないし、
 結果、朝ちょっと酔ってただけだったからね。」

草野監督は、熱い男だ。

未だ出来上がってはいない急に撮ったミュージックビデオ、
どんなものになるかで採用が決まるような話になっていたが、
どんなものでも使うと思う。
あの姿勢、そして、共に過ごして流れた時間の密度と発生した熱を知っている。

 

 

熱量

 

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2012年7月7日

初めてのCDリリースに寄せて

「OLと鳥」

ミックス作業が最終の段階になり、CD-Rにいちど音源を落とし込んで、
小学生の頃からあるSHARPのラジカセにそれを入れ、再生ボタンを押す。

曲が流れる。1曲目。

1. 左手

これは当時、東京で暮らしていた頃、
ルームサービスのアルバイトをしていた際つくった曲です。
バイト後、休憩室(ホテルの部屋の一室を倉庫にしていた)で冒頭の部分を作りました。
そこから色んな場所で少しずつ積み上げて、東京、高知、
最終的に締めくくられたのは確か鳥取でした。
そんな話は曲の内容とあまり関係ありません。

そして2曲目。
歌が始まるまでのつまり前奏の間、なぜか泣きそうになった。 
どこか分からないところから訪れた涙と共に今までのことを思った。
今までがあってよかったとか、そんな言葉でもなくて、
今までのことがあって今がある、という、その事実だけが、
現実以上に身に染みたようだった。
無駄じゃないとか、人生はそんなに生易しくない。

2. 別れの気配

これはほんとのほんとに最初の最初に録音した曲です。
つまりレコーディング初日、
緊張したまま、わけのわからないまま
しかし気持ちだけは込めるぞという意識だけで口を開いて歌った曲です。
これについては1テイクしか録りませんでした。
昔の恋人とはこの歌の通りうまくいかなかったわけですが、
時間が経ち、このテイクでは感謝をこめて歌うことができました。
お元気ですか。
これでようやくあなたと別れることができそうです。

3. ノート

初めて作った曲。
中学高校の時にも作りはしましたが、
高校を卒業し上京し、しばらくが経ち、
20歳の時に作るぞと思って作った曲。
これが私の中ではなんとなくはじめてのような気がしているので。
そしてその時じゃないと作れなかったものだと。

4. 恋のうた

今回収録した中では一番新しい曲です。
好きな人に会える日は歌を歌う必要もない、そんなうかれたチューンです。
この曲がきっかけで、浜口の曲は妄想でできているのではないかという噂が流れましたが、
それは全て「口を塞がれて」というところが原因だと思います。

5. OLと鳥

歌っている通りです。
ちなみに声のふるえは「緊張」からではなく、「興奮」からです。

**

このアルバムは全て私の生まれ育った高知県にある、
藁工アートゾーン「蛸蔵」にてレコーディングを行いました。

レコーディングエンジニアは田辺玄さん(WATER WATER CAMEL)。

一人では決してアルバムを作ることも、
出来上がることも、
間違いなくなかったように思います。

だから、私の曲が盗作だったらどうしようとかいう土壇場でのどうしようもない悩みを優しく聞いてくれた玄さんを始め、私の声のCD化を希望したばっかりにジャケットのデザインまでする羽目になったデザイン&プランニングのプロ・竹村さん(歌詞カードがまるでひとつの本みたいでとっても好き)、どれをやったらいいか悩んでいる私に「全部やったらいいやん。」と言ったばっかりにCDのイラストを描くことになったもこ、初めて作ったデモ音源を「いいじゃん」と喫茶店 ”terzo tempo” の佐野Pが言ってくれたから私はライブをすることができたし、平素から関わってくれているMを始め、すべての人に感謝します。

ありがとう。

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2011年6月16日

えっ、あれが!?

誰かが「あれが“はまぐちひろこさん”よ。」と言って、
「えっ、あれが!?」と言われることが最近多い。
その度にどんな顔をしていいか分からない。
「えっ、あれが!?」というのは確実にあれだろう、
肩すかしをくらった人のリアクションだろう。
あるいは架空の人物だとでも思っていたのか。
いずれにせよ私には私を見たその人が「がっかりしている」ように見えて、
真顔でいると余計にそのがっかりを助長してしまいそうなので、
「いや〜どうも〜すみませ〜ん。プライベートなもので〜。」
などとヘラヘラヘラヘラする。

そうでなくても私は気づかれない。

待ち合わせた友人にはもちろん、
接客に力を入れているお店に入っても「いらっしゃいませ」と言ってもらえないことがある。

私に一体何をどうしろというのか。

もういいや、普段は普段なのだし!
私は開き直り、いっそプライベート楽しんじゃおう!と、土砂降りの雨おかまいなく、
行ったことないケーキ屋さんに予約なんかしちゃって、
友人のバースデーのためのフルーツタルトを買いに行ったりした。

すると後日、
「こないだ◯◯(ケーキ屋)の近くを歩いてませんでした?」
とCDを買ってくれた初対面の人に言われた。
その日は土砂降りだったという記憶の一致により、それは私だと私も思った。
車に乗っていたという相手に、あんな雨の中、どうして分かったのですか、と聞くと、

「背中で分かりました。」

と言われた。

私がプライベートでできる手だては、無いも等しい。


(高知にて、2011年)

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