2022年12月4日
進撃の風呂
ひさしぶりに、木造に住んでいます。
一応、トイレとバスは分かれているのですが、
内見のときからお風呂の古さ、
ためしにバスタブに入ってみたとき
壊れそうなくらい大きな音を出したので
そのバスタブも、お風呂も、建物も、古いことはわかっていたのですが、
住んでから、わかったことがあります。
バスタブが、浮いているのです。
なぜかバスタブと床のタイルの間にすき間があるのです。
いや、大体のバスタブは実はそういうものかもしれませんが、
少なくともすき間は見えないようになっています。
私がそのことに気づいたのは、まさに引っ越してきたその日、初日のことでした。
内見の時点でバスタブに入ってみることからもお気づきの方もいるかもしれませんが、
私は風呂に浸かるタイプです。
引っ越し初日ももちろん、
高知から猫をつれていくつかの乗り物に乗ってきたわけですから風呂はマストです。
なんとかガスや電気の契約も間に合い、湯をためて当日のうちに浸かります。
入るとき、やはり壊れるようなバリバリバリ!が響きます。油断すると立ち上がるとき、
なぜか出っ張った壁のL字部分に頭や腰をぶつけそうになります。
でもそんなのは慣れです。
"慣れ"次第で、どうとでもなります。
こわごわ鼻歌を歌いながら、湯を抜くとき、驚くことが起きました。
湯が、
一斉に湯船の底から登場したのです。
栓を抜いて排水溝および排水口に流れる湯しか知りませんでした。
その様はサントリーホールも圧巻の眺めでした。
なんのルートも敷かれていないただタイルの上に、
浴槽の穴を出た湯が「わ〜っ!」と飛び出し、
一度溜まれる限りタイルの上に留まり、ゆっくり少し窪んでいるだけの排水口に収まっていく。
一斉に出てきたのは湯だけではありませんでした。
湯のランダムなリズムに乗って、どこから現れたのか目をうたがうほどのヘドロ、ヘドロ、ヘドロ? これ何? ミジンコ? ミジンコの集合体? ヘモグロビン? 何? みたいな、とにかくどのくらいの歴代か想像できないくらいの汚れのようなものがせきを切ったように出てきたのです。
ショックでした。
こんなの、初めて見ました。
なにを、誰に、なにから伝えればいいのか、という感じでした。
しかしここは木造アパート。
それなりに年数も経っているとすればこういったアクシデント(?)も微笑んで流せる器量を! と思い、私は毎日風呂に入りました。毎日湯を流せば、いつかヘドロの歴史も一掃されるはず!という希望とともに。
毎日ミジンコの集合体は船の底から登場しました。
「ハ〜イ!」
「いるよ〜!」
「元気してるぅ〜?」
いろんな声が聞こえました。
ひと月経ち、だいぶその量も減ってきたかなと思い、
少しずつ、息を止めずに、湯栓を抜けるようになってきました。
そして湯船を使用し50日ほどが経ったころ、
湯と、いつものヘドロミジンコに乗って、ヘアクリップが出てきました。
もちろん、私のではありません。もちろん、かなり古そうなやつです。
「いつの、ヘアクリップ、、、?」
私は、「ボス」だ。と思い、静かに浴槽の中から眺めました。
さらにそれから10日以上経ったある日、
湯に浸かりながら、私は『進撃の巨人』を読みはじめました。
ここまで、「湯に浸かる」ということに必死で
肝心の「リラックスする」を忘れていることに気づいたのです。
引っ越しあるあるです。
Amazonを開くと、Kindle版なら「8月末まで無料で読める」と書かれていて、私は進撃しました。
湯の中で1時間、2時間、、そのまま3巻まで読み
4巻に入りこもうとしたとき、急に有料になりました。
「してやられた!」
いや、自分の見通し(期間限定・全巻無料と思った)が甘かっただけなのですが、まさか3巻分とは。
ひとまずその巻だけ購入し、途中まで読み、
夜もいよいよ遅かったので一旦湯船から出ることにしました。
3巻と少し、いやがおうにも今後の展開が壮大であると予感させる物語、その基盤となるだろう序盤を一気にかけぬけ、私はボー然としながら湯栓を抜きました。
いままでで一番、最大サイズのヘドロみたいなやつが出てきました。
私の目にはこのようにしか見えませんでした。
巨人です。