2022年3月13日

〔日記〕回転寿司で

3月某日

18:30。おかんと回転寿司。

先に店につき、入り口入って左手・一番奥のボックス席に案内してもらう。
このボックス席に座る頻度は高く、私はいつも通り奥側の席に腰掛けたが
今日は割と客が多いせいか、カウンターをはさんで向こう側のボックス席、
視野だけで確認したところ子供づれのファミリーばかりで、なおさら人が多く、落ち着かない。
・・・静かに入り口寄りの席に移動する。数分後、母が来て、笑顔で奥の席に座る。
二人で「赤だし」を注文し、母だけ「茶碗蒸し」を注文する。それからいざ寿司の注文をしようと、
カウンター側に置かれた注文用紙を取り「えんがわ」「生げそ2皿」などと書いている途中、
母親がやや身をかがめ、少し声をひそめて
「向こうの席に、ミカちゃんがおる。」と言った。

「えっ!」

ミカ、というのは中・高時代の同級生だ。
私もなぜかやや身をかがめながら、そっと振り返る。「子供いっぱいおる。」
振り返る私のナナメ後頭部にも母がまだ喋りかけてくる。
ほんとだ。子供がいっぱい(少なくとも3人以上)いる。
どうやらこちらから背中側が見える、ミカの向かいの席の人間も同世代の女性と見え、
子供はおそらくその女性の子供も含めての数、
その女性は妹の"マキ"だとふむ。「妹や。」
部活でも6年間一緒だったこともあり、私は妹も知っている。
なんならお父さんとお母さんも知っているし、お父さんが当時オリジナルでつくって気に入っていたギャグも未だに覚えている。「パッパパパッパ!」と言いながら手を顔の前に出してつられるように顔を・・ってこれはパールライス!?いや、ギャグの説明は今いいか。
「ミカや。」間違いなくミカだった。
マスクをつけていても、寿司を楽しそうに選ぶミカだった。



私は母に向き直り、「どうしよう。」と言った。そして考えた。
今、話しかけても互いにまだ食事中だし、こちらはまだ一皿も食べていないし、
この先、長時間意識したままというのは気まずい。
ひとまず声をかけるかどうかは相手が帰るときになってから考えよう。そう思った。

「でも全然気づかれてない。」と母が言った。

曰く、「私、けっこう気づかれんがって。」とのこと。

意外だな、と思うのは自分の母親だからだろうか。まあ少なくとも目が合ったりもしていないようだし、私たちは寿司に集中する。「えんがわ」「生げそ」「つぶ貝」に「ウニ」!
店内が混んでいるためか提供が遅れている。最初の注文から体感にして10分が経ったとき
一皿目がきて私たちは狂喜。そうして2回目の注文をし、1回目の2分の1くらいのタイムで
寿司の皿がやってきたとき「あっ!」母が言う。

「ミカちゃんが、おトイレに、立った!」

まるでクララ。
私たちのボックス席はトイレ入り口の真横の席のひとつ奥で、トイレにとても近い。
遠くからだと気づかれない母の顔も、トイレ手前から見るとくっきりはっきりとして気づかれやすいだろう。・・・どうする・・・?
私たちは無言で相談し合い、シラを切ることにした。
やっぱり今気づいても意識しながら寿司を食べるのはお互い気まずいだろう。

一歩。また一歩と同級生がトイレに近づいている。
背中の感知器を発動させる。そろそろトイレに近くなってきたであろうところで
母は真横、チェーンコンベアの上で回る寿司に顔ごと視線を移した。私も見る。
ちょうど流れてやってきた皿について言及する。
「あ~~だし巻き卵もいいかもね~」「え?」なぜ聞き取れないのだ母よ!

「・・・しのぶ、さん・・・?」

カウンターとは逆の頭の後ろから声がして、振り返るとまさしくミカが母親の顔を見つめていた。
しのぶさんとは私の母の名だ。

気づかれていた。




私たち親子は一体どんな風に映っただろう。

どんな顔をしていただろう。

たしか私の第一声が「あ! 気づいちょったがや!」だったので、
私たちが気づいていたことは気づかれたと思う。


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