2016年8月3日
母の好み
5月1日
空港について、母の姿を確認した。なんだか少し疲れているみたい。
ここのところなぜか帰ってくると最初にグラタンが食べたくなる。
ドリアじゃないのだ。マカロニグラタン。
空港の近くにあるいつものレストランでわたしはグラタンセットを、
目の前の母はスープカレーを頼んだ。
注文した食べ物がくるまでのあいだ、母は最近買ったiPadを
自慢気に披露してきてわたしは「この前も見たよ。」と返して、
母は最近撮った写真を見せたいらしかった。
数ヶ月前から飼い始めた犬の写真。
庭の木陰にいる犬、家の中でぬいぐるみを噛む犬、こちらを見て微笑む母、外を走る犬……。
時々、犬の写真にはさまって母の自撮り写真がまざっている。
携帯ではなくiPadで撮ったもののせいか、
女子高生などのものと比べて重みがある。
犬ともちがう。
重厚感のある母の顔が、ふとした瞬間こちらを見ている。
私の元にグラタンセットが、母の元にスープカレーがやってきて、
お互いの生活のことなどだらだら話す。数十分。
わたしの方にだけデザートがついていて、羽田空港で
ソフトクリームの乗ったアイスコーヒーを飲んでいたわたしは
その3分の2を母にあげた。
「いらんで、ひろこが食べや。」
と言いつつもこちらが差し出すとうれしそうにカレーのスプーンを刺す母の手元のカレーには
まだごろごろの人参と茄子が残っていた。
「食べんが? 人参と茄子。」 と聞くと、
「イヤだ! 食べたくない!」 と母。
あまりにまっすぐでかたくなな様子に、
「もしかして、にんじんと茄子、キライなが?」 と聞くと、
「うん。嫌い。」 と素直に母は答えた。
わたしの知っている母は何でも食べる。
何でも食べてわたしの好き嫌いに「ぜんぶ食べや。」と諭していた。
そうか、母の並々ならぬ努力。
まだまだ知らないお母さんがいるらしい。