2013年7月30日
発見!岡村先生
2013年7月10日
夕方、日が傾く頃を見計らってプールに行き、濡れた髪をひとつに結びすっぴんで帰り道を自転車で走っていた。そういえばあの人にファミリーマートのジェラートが美味しいと勧められていたのを思い出し、坂道を下りながらブレーキいっぱい握りしめて5m先のファミリーマートめがけてハンドルを右に切ろうとした時、嬉しいことあったよ!とでも言いたげにニコニコしながら自転車を漕いでる中年男性が目に入った。清潔な白いシャツ。濃い色のベルトでベージュのチノパンをしっかり固定している細身の中年男性は、私が中学3年生だった時の担任、岡村先生その人なのだった。
「先生!」自転車で坂を下りながら呼びかける。
先生は上り坂の途中で慌ててブレーキをかけ、振り返り私を確認し、
「タイかどっか異国の人かと思った。」と言った。
なぜ異国の人に見えたのかはさておき、
「先生、痩せました?」と聞くと、
「いや、それが逆、太ったがやき。」と先生。
「ずっとベスト体重の55kgやったがやけど、それが今、史上最高の、57kgやき。」
「2kgって、あんま変わんないですよ。」
私のコメントは聞こえないのか先生は「それで最近鍛えようと思ってよ、
プロテイン飲んで1ヶ月くらい色んな人に方法聞いてトレーニングしよったがやき。
そしたら胃、壊してよ。」と続けた。「俺の体が悲鳴を上げたがやろうね。」
「へ〜、プロテインって胃に負担になるんですね。」
「いや、それは分からんけど、まあ俺には向いてなかった。」
話している時、先生は、坂道を下ってくる自転車、上ってくる自転車、歩行者、
車道を走る車、向こう側の歩道を通る何か、
色んなところをキョロキョロキョロキョロキョロキョロ見て、本当に落ち着きがない。
「先生、私今高校生みたいなんです。何をやったらいいがやろうって。」
「いいやん。俺もそんなもんで。
いや、8割子供のままやろ。大人なんて。」
そして、先生は、「最近“セイ”を感じるようになった。」と言った。「え?」興味深い話だと私は耳を傾けた。
「あの“性”やないで!あの…」
「分かってますよ。“生きる”でしょ?」
「そう。まぁ、りっしんべんの方もあるかもしれんけど、
最近になってすごく“セイ”を感じるようになったなぁ。」
「なんでですか?」
「“澄みきり”っていうビールが出たがよ。
知っちゅう?
それが結構美味しくてねぇ。今まで第3の時間(※正しくは第3のビール)って
どうしてもぬか臭いなっていうのがあったけど、それがないがよね。
ぬか臭さが無い、それを感じれる、“セイ”を感じるよネ!」
「先生、私はきっかけが知りたいんです。」
「あ、バレた?さすが……。するどいね〜。確かにこれは結果やもんね。うん。ああさすが浜口。」
このままはぐらかされるか、大した内容もなさそうだと察した私は、
「先生、私、中3の時何してる時が楽しそうでした?」
と尋ねてみた。
すると先生は「何をした時ふさぎこんじょったかやったら言えるけど、、、」
と言うので「そんな!楽しい方を知りたいです!」と制して言うと、
あの頃を思い出すように地面を見ながら先生は
「毎日、今日は何をして何を聞いて主導権握っちゃろうかって考えよったよね?」
「え?」
「他にも狙っちょったやつらはおったがよ。」
「うそ!?」
「うん。例えば◯◯やろ、△△やろ、あいつらもワ〜って目立ちたくて、」
「ウソ!?」
「覚えてないだけよ。色々あったがやき。」
「へ〜。」
「みんな月曜八時の枠が欲しかったがやけど、
そこを浜口が結局とっていってしもうたろ。
月曜八時に入れんかった人らぁは金曜十時に行くしかないわけよ。
あるいは浜口の番組の月曜八時のひな壇芸人として出演するか、
あるいはそれこそ金曜十時で自分の番組持ったり、そうじゃない人は本読んだりよ。」
「じゃあ、先生、中3の頃の私は、何が向いてると思います?」
「え?」
「役者なのか、脚本家なのか、文章なのか。はたまた歌?」
「ああ。
オールマイティでいいがやない?
カズとかはよ。サッカーやろ。
もうサッカーしかないってそういう感じやんか。
でも中田はよ、中田英寿ね?
サッカーとかやなくてもいいって、そういう人やんか。
色んな国行って、実際色んな国の言葉喋れるし、あの人頭もいいきね、
震災の時はすぐ現地に行って活躍したり、、
中田はひとつじゃないやん。浜口も、中田タイプやろ。」
私達はファミリーマートの隣の駐車場の前の歩道で、自転車を握ったまま話を続け、
私は既に足や手を蚊に4,5カ所かまれているのに対し先生はかまれていないようなので解散した。