2013年7月9日

遠いモンサンミッシェル

「私ずっと“モンシャンミッシェル”と思っちょったがって!」

と、パリ旅行から帰ってきたばかりの友人、よっちゃんが言った。

ところでよっちゃんはよく聞き間違いをする。
最近がんばるゾ!と語学力向上に燃えている韓国語だって、私が5回
「カムサハムニダ(韓国語でありがとうの意)」
と言って教えてあげても
「え?カムハムハサムニダ?」
と平気で聞き返してくる。
なんだ、カムハムハサムニダって。
噛むためのハムでも挟む気なのか。

「でもね!今回は言い間違えたんではなくてそう思い込んじょっただけやきー!」

と、モンサンミッシェルの件について、彼女はなぜか開き直っている。
言い間違いを庇った結果、聞き間違いの可能性は露呈したことになるのだがそれはさておき、

「ねぇ、モンサンミッシェルって、何?」

私は世界地理とか各国に散らばっている歴史的建造物に疎い。
アンコールワットはただの土砂道のことだと思っているし、黒海と死海の違いも分からないし、
入ったら出て来れない何かがどこかにあると聞いたことがあるが何のことだか分からないし、
斜めに傾いてるやつとか、とにかく私の知らない名所が世界にはまだまだたくさんあるのだ。
「えっ!モンシャンミッシェル、知らんが!?」
よっちゃんは軽く驚いてから、
「ひろじに写メで送った、エッフェル塔じゃない方。」
と言った。
これはもしかしたらエッフェル塔ではないかと思っていた写真はやはりエッフェル塔だったのか
と少しホッとしてから、もう片方の写真を思い返す。
「ああ、あの幻想的な!」
写メールから受けるあまりにアバウトな感想もよっちゃんは満足気に受け止めて後、
「あれはね、、」
と、なぜかモンサンミッシェルができるまでのエピソードを語り始めたのだ。

(おそらく現地で教わり得意気になっているよっちゃんの以下、説明。)

昔、ミカエルさんって人がおったが。それで、ある日そのミカエルさんの夢に神様が出てきたがやって!それで神様が、あそこに、教会を建てなさいって言ったがやって。今モンシャンミッシェルがある場所にね。でもミカエルさんはまさか自分のところに神様がくるわけないって思って、無視したがやって。そしたらもう一回神様が夢に出てきて、同じこと言ったがやって!でもまだミカエルさんは自分のとこに神様がくるわけないと思って、それも無視しちょったがやって!そしたらまた神様が出てきて、3回目の夢でまた同じことを言ったがやけど、神様が自分の頭の中に指を、すっと入れてきたが、頭にこう、刺したがやって!ミカエルさんの。それでその指が抜けても痛くもなんともなかったき、これは本当に神様ながやと信じれて、こりゃ教会建てないかんと思ったがよ!それでフランスのおえらいさんのとこに、建てるには許可がいったきね、許可をもらいにテクテクと、モンシャンミッシェルの場所は遠いきテクテクと、おえらいさんのとこに行って、それで許可がもらえたがやって。そしたらその帰り道、地震が起こったが!そしたら、今まで平たかった場所がもくもくもくっと隆起してきてぇ〜、で、まぁそこに、その隆起してきたとこに、モンシャンミッシェルを建てたがやって。それで、当時から聖なる場所として〜、モンシャンミッシェルは巡礼の場所になったがやけど、モンシャンミッシェルにつながる道が潮の満ち引きの場所やって、そんで潮が満ちるのが時速8km?かなんか、私も見たけど、とにかくすごい早さで満ちてくるがって!それでもたくさんの、しゅごうそう、たち、が、、

ん?

・・・しゅごう?

今まで相づちだけで大人しく聞いていた私ももうダメだ。
その歴史的背景のある厳格な建造物を前に、
彼女の説明はあまりにオリジナリティ豊かで、
言い間違っているモンシャンを直す気配さえなければ、
そこに修行僧ならぬ“酒豪層”達が押し寄せる様はあまりにひょうきんだ。

そう、よっちゃんは言い間違いもよくする。