2013年7月7日

デビューライブ

2011年10月1日

今回、私は特に部屋の掃除をするでもなく、体を念入りに磨くこともなく、
いつも通りに過ごしている。
今、本番前。
久しぶりの本番前。
昔、役者をやっていたことがあるのだ。
そして、出演する舞台の本番前には、
あますところなく部屋を掃除していたのだ。
隅々まで掃除機をかけ、排水溝や水回りなど特に念入りにキレイにし、
前日あるいは当日に入るお風呂では磨き残しのないように体の全てを洗い清め、
小屋に入る日はまともな服を着て、本番当日は片付いた部屋の中で、
線香を焚き、あらゆるものに祈り、その線香の煙を自分の体の周りで一周させた。
あれから知らない間に4年が経ち、
私にまた、本番がある。
今日は歌の本番だ。
特に部屋の掃除もしていないし、掃除機はここしばらくかけていない。線香もたいてない。

人には同じような状況になった時しか目覚めない記憶がある。
それはかつての本番前。
気が狂ったように本番前、身の回りをキレイにしていたのは単に、
礼儀の問題だと記憶していた。
舞台にいるかもしれない神様のような存在に、失礼のないように、
極力色んなものを清らかにしてから挑んでいたのだ。
と。そう記憶していた。
でも違った。それだけではなかった。
やっぱり掃除しようかなと身をかがめた時、それを思い出した。

私は、負い目を0にしていたのではなく、言い訳できる可能性を0にしていたのだ。

と。
万が一失敗した時、何者のせいにもできぬように。
自分ひとりで立ち向かえるように。
もし何かアクシデントや芝居上のミスがあった時、
ああ、排水溝を掃除してなかったからだ、
洗い物を残しているからだ、
体の磨き残しがあったからだ、
と思えないように。先に手を封じていたのだ。
あれは、失敗の原因となるものを殺す作業だった。

人間らしくないな。
と4年後の私が思う。
昼寝でもしようか、と窓からの風を受けて考える。
あと何時間かしたら新しい本番がはじまる。
その本番は「デビューライブ」と銘打たれている。

2011年10月1日