2020年7月5日
眼留華離
6月某日
喫茶店・日曜社のヨコケイから「なんか(人生)進みゆうやか〜!」と言ってもらった理由は私がメルカリを始めたから。借りていた本を返しに行き、本を入れていたエコバッグも差し上げますよと言ったが「売れるかもしれんき!」と優しく突き返された。
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今もし恋人ができても私はメルカリの話しかしないだろうから申し訳ないなと思う。
それにしてもメルカリ内のユーザー評価というものは、お互い出品者である可能性の方が高いわけで、まあ購入のみのために利用しているかつての私のような人もいるとは思うが、とにかくいつか自分も評価されるかもしれないのだからアテにはならない。
それにコメントとかも早くした方がいいらしい。社会か。
みんなそれはマメに「お取引ありがとうございました」、とか、「またご縁がありましたらよろしくお願いします」、とかやっている。こんな物と物だらけの天空の城みたいなメルカリワールドでご縁もへったくれもあるのかと思ってしまう曲がりきったへそをもつ私は絶対にまたご縁がありましたらとかいう可能性が低すぎる期待など書かない。
あとやってくるコメントは今のところ値下げ交渉だ。今のところ100パーセントの確率だ。プロフィールに「値下げはしていません(混乱してしまうため)。」とていねいに書いているのに! プロフィールを読んでほしい。ていねいに理由まで書いている。こういう、プロフィールを読まない人に限って値下げをしてくるのか。私がもし値下げしようとしたらかなり慎重になる。相手のプロフィールを隅から隅まで読んで、値下げ不可でないと確認できた場合に初めて値下げを提案する。しかも希望の額を添えると親切かもしれない。必ず「もし可能でしたら」、とか「うれしいです」、とかいう遠めからの円を描くようなふわっとした形で提案する。もちろん相手が断りやすいようにだ。断る方もつらいだろう。
昨日も値下げを請うコメントがやってきた。「初めまして〇〇(なんか横文字の名前)です。こちら少しでもお値下げは不可でございますか? ご検討お願いします」。もちろん面倒くさいなと思った。なにせプロフィールに値下げしていないと書いているからだ。マンションにも出していない、私の表札のようなものだ。はじめまして、と偽名を名乗るくらいなら、私のプロフィールを見てほしい。コメントの、否定(不可)の用語と「〜でございますか?」の語尾のセットも若干鼻についたが、“少しでも”という言葉に切実さと、もしかしたらプロフィールを読んだ上で提案しているのかもしれない。そう思った。この人にも何か理由があるのかもしれない。
夜だったし返信が面倒だったので、一晩ねかすことにした。翌日、太陽の光のなかでもう一度出品していた品(本だ)をメルカリ専用BOX(段ボールだ)から引っ張り出し、相談した。本は「50円ならいいだろう」と言ったので、800円のところを750円にすることにした。返信しようとしたらメルカリがメンテナンス中とのことでアプリを開けず、また1〜2時間後にこう返信した。
「返信が遅くなり失礼いたしました。
はじめまして。
基本的にお値下げはしていないのですが、少し前の本ということもあり、心ばかりではありますが750円ではいかがでしょうか?」このメルカリワールドでは“ご縁”という言葉同様、“はじめまして”も怪しいものだと思っているが相手が“はじめまして”と言ったら“はじめまして”と返す律儀さ、“基本的に値下げしていない”プロフィールは見たのか? というやんわりとした問いかけ、返す前にきちんと辞書で意味を調べてGOサインをもらった“心ばかりではありますが”という謙虚さがポイントだ。ひとつの返信にポイントが3つもある。すごい。
数時間後、返信がきた。「ご連絡ありがとうございます。反応がなかったので、お値下げをお願いした事で不愉快になられたのかと思いまして、他で購入してしまいました。せっかくご検討頂いたのに申し訳ありません。」最初のコメントからまだ24時間も経っていない=反応がない、になるのか。社会か。もちろんよそで買ったのはいいし、1500歩譲って“反応がない”というのも許す。でも勝手に人を不愉快に仕立て上げるのだけはやめてほしい。5万7000歩譲ってそう考えてしまったのもしょうがない。でもわざわざ私の出品しているコメント欄に不愉快風を残す事はないだろう。そんなにていねいに書くならこれでいい。
「生来せっかちなところがありまして、あなたさまからの返信を待ちきれず、他のところで購入してしまいました。お恥ずかしい限りです。メルカリという、たくさんの商品が出品されているひとつの社会のような場所で、また何か言葉や物を交わすことがあるのかそれは定かではありませんが、もしも、ご縁がありましたら、また別の品をどちらかが発見することもあるのかも、ないのかもしれません。この度はご検討をいただいて、本当にありがとうございましたとメルカリの世界の私が申しております。」
そして今回、素直にコメントを残していいなら私はこう返す。
「あなたとは友達にならないと思います。」